役行者物語 8(28-31)
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不思議な世界 1

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役行者小角 物語  (えんのぎょうじゃ おづぬ)



 第8章 一言主神  BGM is playing now !
 ■ 第28話 小角を密告


吉野の宮滝
 その頃、吉野の宮滝には、すでに離宮が建っていた。


 葛木や吉野の山中に入って仏教の修行をする人が、次第に増えていた。修行者たちも大勢が集まってきて、大きな集団になっていた。
 その中でも、役行者が特別に偉い呪術者だと知らない人はいないほど有名になっていた。

 ある日、小角の呪術が非常に優れているという評判を聞き、弟子になりたいと、一人の青年=韓国連広足(からくにのむらじひろたり)が現われた。小角は、広足はなかなか利口そうで大物になるように見えたので、弟子になることを許した。

 広足は、元々、大和の豪族=物部一族の者で役人になりたいと思っていた。小角についてから、広足はいっそう勉強に励んだ。


 その頃の小角は、呪を立てたり、薬物になる草木を探し求めたり、金山らしい山をさがしては掘りかえしたりと、弟子たちにも理解しがたい行動を取ったりしていた。

 広足は、評判とは違う小角にがっかりし始めた。小角は、広足には呪術を少しも教えようとしないし、お経も何も教えなかった。

 元々、呪術は、誰にでもできるものではない。呪術者になれる者は、生まれつきの素質による所が多く、いくら頭が良っても呪術者になれるとは限らない。
 広足も、次第に自分は呪術者にはなれないと思うようになった。広足は希望を失い、修行にも熱が入らなくなっていた。そして、広足は、遂に呪術の修行をやめて山を下りてしまった。

 広足は、自信の強い男だったので、悔しくてたまらなかった。思い余った末に、小角を憎むようになった。そして、仕返しをしようと決心した。



解 説

 飛鳥時代に入ると、宮滝に吉野宮が造営された。持統天皇は、吉野宮を30回以上も訪れている。奈良時代には、吉野宮の西側に吉野離宮が造営された。宮滝の美しい自然を愛でる宴が催され、多くの大宮人たちが訪れた。吉野離宮の跡が「宮滝遺跡」として残っている。
 その後、広足は、地方官としては最高の外従五位の位に就いた。異例の出世だった。
 彼は何とかして小角に仕返しをしてやりたいと、その方法を考え続けました。小角は、村人たちが困った時には呪術を使って助けていたのだが、広足には、小角が村人たちをたぶらかしているとしか思えなかった。

 広足は、「小角が人々をたぶらかして、国を傾けるような悪事を企んでいる。」と、もっともらしく役所に訴え出た。



 ■ 第29話 不思議な行列

 第21代=雄略天皇の時代(456-479)のある日、天皇が大勢の家来を引き連れて、葛木の山に狩に来た。
 そして、帰ろうとして山を下りていくと、向うから偉そうな男が大勢の家来を連れた不思議な行列がやってきた。

 よく見ると、まるで真似をしたように、彼らの服装も、持っている弓や剣も、人数も、こちらの雄略天皇の行列とそっくりだった。


 天皇は、この国には自分の他には天皇はいないと思っていたので、大変驚いた。怒った天皇は、家来に弓に矢をつがえさせた。すると、向うも、同じように矢をつがえ、こちらを狙っていた。

 そこで、天皇は、自分はこの国の天皇であると告げ、相手に「名を名乗れ」といった。相手は、「我は、悪い事も一言、善い事も一言、言い放つ神。葛城の一言主(ひとことぬし)の大神である。」と答えた。


 これを聞いた天皇は、この葛木の山に住むという一言主神に畏れを抱いて、剣や弓、衣などを差し出し、長谷の山の入り口まで丁重に見送った。



一言主神社(左下)と葛城山
(奈良県御所市森脇)

解 説

 葛城 (かつらぎ) は、奈良盆地南西部をさす地名で、古墳時代有数の豪族=葛城氏の勢力圏だった。古くからある地名で、葛木という漢字を当てる例もある。


 ■ 第30話 一言主神の恨み

 葛木山には、いろいろと難所が多った。
 そこで、小角は、吉野の金峯山と葛木山との間にある険しい谷に、岩橋を架けようとした。

 小角は、一言主神や鬼神たちを呼び集めて、橋を架ける仕事を命じた。

 鬼神たちは、嫌々ながらも仕事にかかった。
 だが、工事の進み具合が悪いので、小角が様子を見に行くと、鬼神たちは昼間は作業をしないで、夜だけしか働いていなかった。なぜかと問うと、鬼神たちは、自分たちの顔と格好が醜いので、里人に見られたくないと答えた。小角は、日中も働くようにといいつけた。

 それでも、工事の進みが悪いので、再び、調べて見ると、一言主神が鬼神と示し合わせて、怠けていた。小角は、大いに怒って、呪術で一言主神の身動きができないように金縛りにした。

 一言主神は、その恐い顔には似合わず、大きな声を出して泣き叫んだが、小角は、藤のツルでぐるぐる巻きにして谷底に投げ込んだ。
 それ以来、一言主神の大きな泣き声が、峰中に響き渡った。


 一言主神の恨みは、積もり積もって、その魂が賀茂の社の神人たちの身に乗り移った。それで、社の神人たちは、気が狂ったようになった。


一言主神社の大鳥居

鳥居

本殿

 社の神人たちは、社の前を通る大人にも子どもにも、「賀茂の役の優婆塞が国を傾ける。謀反だ! 謀反だ! 早く捕まえて牢屋へ入れろ! 捕まえろ。捕まえろ。今に、国が滅びるぞ!」といって叫び続けた。

 一言主神の魂が乗り移った神人たちの言葉を、そのままにしておく訳に行かず、とうとう、役人が小角を捕らえるようとした。
 だが、大勢の役人が小角を取り押さえようとしても、金縛りの術などを使ったり、空へ飛び上がったりして、なかなか捕まえられなかった。  そして、小角の評判は、いっそう高くなっていった。



解 説

 岩橋とは、川に石を投げ込み、その石を伝わって渡れるようにすること。



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