第4章 葛木山 篭山修行
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■ 第14話 葛木山にこもる 1 ■ |
小角は、熊野権現参拝から帰った後、生駒の山で修行していた。
生駒の平群の谷
ある日、小角は、生駒の平群(へぐり)の谷に来ていた。その時のこと。空に、奇妙なものが飛んでいるのを見つけた。
夜になると、夢の中に、生駒明神が現れた。
「役小角よ。鳴川の谷を登れ。さすれば、観音菩薩が必ず助けてくださるぞよ。」と告げて消えた。
翌朝、小角が、鳴川の谷を登っていくと、深い谷の中で細い滝がしぶきを上げていた。小角は、ようやく、奥の場所(現在、千光寺がある所)にたどり着いた。
小角は、森の中を歩き回って観音を探したが、なかなか見つからなかった。
小角は、裏山に行場をつくることにした。しかし、昔から、この山にいる鬼に邪魔されてはかどらなかった。
小角は、初めのうちは鬼に言い聞かせていたが、なかなかいうことを聞いてくれず、遂に怒って、鬼とけんかをしてしまった。
鬼は、人間のいうことが分からず、悲しそうに泣きながら生駒の谷を下って逃げて行った。
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解 説 |
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生駒の山に棲む鬼について書いた次のブログがある。
micho7さんの
「五鬼物語」
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ある日、一人の老僧が現れて、黙って奥の方を指差した。
小角が、その方向へ登っていくと、薄暗い林の中に、ぼんやりとした不思議な光が放たれていた。その光は、一本の大きな漆の木から出ていた。そればかりではなかった。木の幹の中に、十一面千手観音の姿が映し出されていた。
小角は、驚いて、思わず手を合わせた。すると、観音は、消えるように天に昇っていった。
小角は、その漆の木に、拝んだばかりの観音の像を彫り、堂を建てて祀り、修行に励んだ。
小角は、時折、紀州から熊野の三所権現に参った時の恐ろしい出来事を思い出していた。
熊野の地に行くまでは、恐ろしいと思ったことは一つもなかったのに、熊野では、何度も何度も恐ろしい目に遭った。だが、小角は、そのたびに、不思議な力によって救われた。
世の中には、人間の力を遥かに超えた言葉ではいえないような大きな力があることを悟り、神仏に対する感謝の気持ちを忘れなかった。
小角がこもった葛木山
小角は、茅原の家を出て、葛木山を道場として、葛木山にこもって修行に励もうと決心した。
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解 説 |
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今でも、葛木の山には神が宿り、生駒の山には霊気がこもっているといわれている。小角が、俗世界を離れて、山の神が住む山中に自らを投げ込んで修行に励んだ。
その奥底には、これまでの自分の在り方では、悟りの道に入ることは到底無理だと考えたのかもしれない。
第38代天智天皇の4年(665)、小角は、32歳になっていた。身長は五尺七寸(約1.7m)、日焼けした顔、もじゃもじゃとはやした髭、山の獣のように鍛えられて筋肉のついた身体。小角は、すっかりたくましくなっていた。
小角は、藤の蔦の繊維から作った布を身体に巻きつけ、ワラビやゼンマイなどの山菜や、松の実などの木の実を噛んでいた。松葉を食べると、暗闇の中でも物が見えたり、500歩先きを行く人の足音を聞き分けたり、わずかな匂いをかぎ分けたりできるようになっていた。
葛木山へ来るまでは、あちこち飛び回っていた小角だが、葛木山にこもってからは、滝に打たれて「孔雀明王呪」を唱えたり、燃した炎の中に何かを感じ取ったりして、まるで仙人のような神通力をもつようになっていた。
小角が、葛木の山に留まるようになって、多くの人たちがいろいろな願い事を持って訪ねて来た。
病気を治して欲しい人や、なにかに取り付かれた人、失くし物はどこにあるか、など。小角のもとに、人々の様々な願いが寄せられた。
小角の評判は、村々に伝わって、呪術者としての信頼を深めていた。
葛木山の麓の人々や小角を知る人は、小角を新しく生まれた霊能者として、呪術者として敬うようになっていた。
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解 説 |
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この頃、山中に入って仏教を修行しようとする人が多くなり始めていた。吉野の山にも、熊野の山にも、修行僧が現われた。
彼らの中には、他国からの逃亡者や、労役を嫌って逃げ出した人も混じっていた。これを見かねた朝廷は、そろそろ取り締まりをしなければならないと思い始めていた。
小角の評判を聞いて、弟子になりたいと集まってくる者たちが次第に集まって、徒党のようになりかけていた。
その中には、小角の様子を探りに来ていた者もいたかもしれなかった。
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